2020.10.05

日本の未来のカギを握るプレイン・リーガル・ランゲージ

Carol Lawson, 法学士号・文学士号(アジア研究学)(オーストラリア国立大学)、翻訳学修士号(優等卒業)(シェフィールド大学)、 法学修士号 (ニュー・サウス・ウェールズ大学)、大学院法学研究科博士後期課程 (オーストラリア国立大学)

オーストラリア首都特別地域弁護士の資格獲得。

判例と法令の分野を中心とした日本のリーガル文書の英訳において長年の経験を持つ。現在はニュー・サウス・ウェールズ大学法学部で教鞭をとると同時に、日本法令外国語訳推進会議の構成員を務める。過去には早稲田大学大学院の法学研究科および名古屋大学大学院法学研究科でも教壇に立つ。また、 クイーンズランド大学大学院日本語通訳・翻訳修士課程(MAJIT)のカリキュラムの一環として10年以上に渡って日英法律文書翻訳を教えた経験を持つ。オーストラリア通訳翻訳検定機関(NAATI)和文英訳検定審査会審査員も務めた。2014年、倉田哲郎氏と共著で「わかりやすい語法による英文就業規則のつくり方」(日本法令 )を上梓。

Carol Lawson, 法学士号・文学士号(アジア研究学)(オーストラリア国立大学)、翻訳学修士号(優等卒業)(シェフィールド大学)、 法学修士号 (ニュー・サウス・ウェールズ大学)、大学院法学研究科博士後期課程 (オーストラリア国立大学)

リーガル分野で多用される複雑で曖昧な表現の始まりは、1000年程さかのぼります。かつての英国弁護士は、社会的に信頼される存在ではありませんでした。ラテン語、英語、フランス語が混ざった秘密の暗号のような旧式の言葉が使用されるようになった一つのきっかけは弁護士という存在に専門職的性格を与えることにありました。この古代暗号ともいえる言語を学ぶことは非常に難しく、法が一般人に理解しがたい分野となり、弁護士の地位が上がりました。このように生まれた、分かりにくい言語を使って法律関連のコンセプトを伝えるという傾向は、全世界で一般的になりました。

しかし、ここ75年の間に大きな変化がありました。法律に関連するコンセプトを近代的で一般的な言葉を使って表現し、誰もが理解できるようにするための動きが進んだのです。世界中の法制局、裁判所、法定出版社、法科大学院、法律事務所が、必要不可欠な専門用語を保ちながら、分かりにくい表現や構文の使用を止めて、法律に関するアイデアを誰もがスムーズに伝達できる言葉を使用するようになりました。この変化は、英語だけではなく、その他多くの言語でも実現しました。数百年前に使われ始めた難解なコミュニケーション方法を使い続けてしまうと、必要な情報を吟味した上での意思決定が難しく、両当事者に無駄なコストや負担をかけるだけという考え方が現在の共通認識となっています。

現在、このトレンドは日本にも及んでいます。国内および国外でコラボレーションを困難にするバリアを取り除く必要性が急速に高まっている現在、この画期的なトレンドは、絶妙なタイミングで訪れました。2001年の司法制度改革審議会提言において、法律とは日本の一般的な人や企業が理解することができ、権利や義務について交渉することができるようにするツールであると再定義されました。同時に、法律の専門家は法に関する知識を守る門番ではなく、相談役といった位置づけで再定義されました。日本でのプレイン・リーガル・ランゲージへの移行は、20年前に提言されたこのコンセプトの流れがついに成熟期を迎えた自然な動きであると言えます。

もちろん、プレイン・リーガル・ランゲージが世界で使用されるようになっても、上記にもあるように、法律の専門用語は引き続き使用されています。長い時間をかけて育まれてきた言葉は、アイデアや伝統を手短に伝えることができる便利なツールでもあります。しかし、それ以外の構成要素は変わります。法律文書では、言葉、レイアウト、文書の構成等について、一般的かつ近代的な言葉であるプレイン・リーガル・ランゲージが使用されるべきです。プレイン・リーガル・ランゲージの世界では、リーガル起稿者が作成する文書に求められることも変わってきました。教養の高さを示すためのライティングではなく、一般的な読者が法律に関するアイデアを正確に、効率的に、効果的にスムーズに理解できるようなライティングが求められています。これが実現すれば、文書を利用するすべての人が、法律文書のライフサイクルのあらゆる時点において、時間、費用、労力を削減することができます。この動きは、法律やビジネスの世界、さらには公的分野にも広がってきており、法律が関わるあらゆるコンテクストにおいての生産性や利益を高めています。